よく思うことがある。
住宅街や、繁華街でもない静かな場所を移動していると「突然」センスの良いお店に出会うことがここ沖縄では良くある。
それは人通りというアクセス面の理由などではなく、地元を大事にしたいという
コミュニティーの大切さを知っているからこそだと思う。
このお店を見つけた時もそうだった。
車で坂を下っていくと、突然Pizzaの文字を通り過ぎた。
え、ここにピザ屋さんがあるの?と思わず振り返ってしまう。
今日はそんな北谷町、謝苅(ジャーガル)にあるNYスタイルピザ屋さんをご紹介。
ここはスケーターが集うアットホームなピザジョイント。
ストリートカルチャーが背伸びせず自然に派生する沖縄。
そういうところなんだよなぁ。
ますます沖縄が好きになる。
沖縄の地名はユニークなものが多い。
漢字を見ても読み方がわからないものも多いし、例え読めたとしても果たして合っているのかがわからない。
例えば、ここ謝苅(ジャーガル)だ。
一度読んだら覚えるくらいインパクトが強い。
「すごい名前ですよね」そういうと爽やかに笑う店主の宮里友晴さん。
宮里さんは生まれも育ちも謝苅という正真正銘のジャーガリアンだ。
なんなら「ジャーガリアン」という野菜たっぷりのオリジナルピザもメニューにあるほど。
大学から東京へ行き、卒業後飲食店を転々と修行し、約10年ほど沖縄を離れていた宮里さん。
飲食業界で仕事をしながらも、元々プロスケーターとして活動していた。
スケートボードの撮影でニューヨークへ行く機会があり、それがピザとの出会いだったという。
「衝撃でしたね。一ヶ月くらいいたんですけど、自分とカメラマンだけでずっとピザとスケボーしてました。夜そのまま遊んで、しかも開いているのがコンビニじゃなくてピザ屋さんなんですよね。最高だなって思って、それがピザ屋とのきっかけでしたね。」
パン屋みたいに身近にあるピザ屋の存在に衝撃を受けた宮里さん。
沖縄に帰ったらNYスタイルのピザ屋をやろうと心に決めた瞬間だったそうだ。
東京吉祥寺にあるBloomoonというカフェ・バーで料理を学び、ピザ生地の作り方も全部そこから教わって今に至るという。
「ピザが一番作るのも食べるのも好きなんですよね。」
スラッピースライスにあるピザはオリジナルが多く、宮里さんが試行錯誤し、NYスタイルの中にも沖縄の味も出したいことから、沖縄の食材もふんだんに使用している。
「おばあちゃんの畑で野菜も育てたいなと思っていて、いつかはお店の食材は全部畑の野菜でやりたいです。」
謝苅産ファームトゥテーブルのピザが誕生する日が来るかもしれない。
「その時に本物のジャーガリアンピザができ上がると思います。」
何がすごいかって、ここ内装、空間づくりの全てが手作りなんだそう。
「なんでもとりあえず自分で作りたくて。自分で経験しないと学べない人なんです。失敗して、次はこうしようって。」
沖縄に戻り、勉強がてら不動産業に就職し5年間働きながら、「合間に」自分で改装をはじめた宮里さん。
元々製麺所だった所を、天井からカウンターまで全て少しずつ自分で手作りしていき今から3年半程前にオープン。
「あの線があるところまで本当は天井だったんですよ。それをブチ抜きました。」
そういうと高い天井を指差してニコニコ笑った。
「店内のランプも自分で手作りしましたね。あれは流石に結構大変でした〜。」
入ってすぐに目についたコンクリのランプ。
普通飲食店の店内ではまず見ないが、手作りだったとは驚きだ。
しかもちゃんと使い込まれているような跡がしっかり付いている。
一人では不可能なんじゃないかと思うくらいハードなDIY話を、まるで思い出を語るかのように一つ一つ愛情を持って説明してくれた。
ここ「SLAPPY SLICE」という店名、スケボー好きなら一発で気づくのかもしれないが「SLAPPY GRIND(スラッピー グラインド)」という宮里さんの得意なワザの名前からきている。
飛ばずに道路の低い縁石にトラック(ウィールとデッキを繋ぐパーツ)でグラインド(滑る)するような玄人向けのトリックだ。
元々叩きつける(SLAP)という意味から始まった名前らしい。
店内にはデッキ(スケボー用の板)がいくつも飾ってあったり、窓にはDIY縁石が装飾されていたりと随所にスケートボードカルチャーの要素が散りばめられている。
「スライスっていうのも向こうで聞いていいなって思って。ピザはピースじゃないんだ!?って思って」
そう笑うと確信するように頷いた。
「ピザとスケボー。自分が好きなものを合体させたんです。」
ちなみにここで働くスタッフもみんな全員スケーターだそう。
「沖縄っていろんな層のお客さんが多いからいろんな人に来てもらえるし、東京で培って、NYで経験したこととか自分が感じたものを地元でシェアしたくて。」
子供からおじいちゃんおばあちゃん、みんなに楽しんでもらい、感じてもらいたいと宮里さん。
子供も一緒に食べられるようにスパイシーなピザは置いてないという。
そんなさりげない気配りに優しさを感じる。
「ここをきっかけにスケートボードを始める子供がいたら嬉しいなって思って。これからも謝苅でやりたいっていうのは貫き通したいんですよね。あとはピザを作る体験とかスクール企画もやりたいなって思ってます。とにかくみんなに楽しんでほしい、そう思ってます。」
アートから音楽、スタイルなど様々なカルチャーの側面を持つスケートボード。
好きなものを貫き通すオーセンチックさがストリートカルチャーのカッコ良さであり、醍醐味だ。
ジャーガルをレップする宮里さんだからこそ作り上げることができたスポット。
これからも様々な人たち、多くのスケーター仲間、そして子供たちのお気に入りスポットになり続けるだろう。
Photo by Makoto Nakasone
Text by Michiko Nozaki
店舗情報: SLAPPY SLICE
住所 〒904-0105 沖縄県中頭郡北谷町吉原89番地
営業時間 11:00-19:00
定休日 日曜日
@slappy_slice