沖縄の日差しは容赦無い。
ジリジリと突き刺してくるような勢いなのに、そのくせ雲が太陽を隠すと突然体感温度が下がる。
とにかくそのギャップがすごい。
この日も私は頭のてっぺんで目玉焼きが焼ける思いで、だらだらと歩いていた。
昼間に見ると夜と打って変わって寂しくなる飲み屋街を通り、こんな日照りの中でハツラツと野球をする子供たちがいる小学校を横目に、どんどん奥へ入っていった。
しばらく歩くと住宅地に入り、そこを進むとCHAIという看板が現れた。
蜃気楼だったりしてなんて思いながらマスクの裏でニンマリ。
一歩入るとブワッと甘くてスパイシーでなんとも刺激的な香りが私の鼻めがけて突入。
それはもう魅惑の香り。
ここは珍しくも、チャイ専門店だった。
その名も「CHAI NEED US」チャイニダス。
あまりにも外が暑かったので入ってすぐに注文。
冷えたアイスチャイが喉を通った時、それは心地よい甘さで、その時チャイは私にとってただ欲する以上に必要な飲み物になっていた。
元々埼玉出身の金子峻也さん、海が大好きで定期的に沖縄に訪れていたという。
「特に夏の沖縄が大好きなんです。」とニコニコ優しい笑顔でお話ししてくれた。
6年程前に移住を決心してやってきた。
最初は北谷のハンバーガー屋さんのキッチンでしばらく働き、その時にパートナーのミナさんに出会った。結婚してからぼんやりと2人でいつかお店をやりたいねと話していた中で、ある時ふと思いついたそうだ。
紅茶が好きだったというミナさん。
突然シャワーを浴びながら「そうだ、チャイ専門店だ!」と閃いた。
そこから二人はノリと勢いで1年半の構想を経て去年2021年8月に店舗をオープン!
その行動力はすごい。
最初はキッチンカーで移動販売やイベント出店など考えたり、いろんなアイディアを膨らませていた。
そんな中でたまたま気になる物件に出会い、ここ那覇市の繁多川に決めたという。
その時の決め手も「何回も通ってイメージができる場所だったし、マニアックな場所だけど、ここにあったら面白いよね。」と二人で話し合ったそうだ。
「自分達もワクワクする感覚が大事なんですよね。ここにくるお客さんにも同じ気持ちでいてもらいたいし。」
そういうと二人で目を合わせて、「そうだよね」と頷いた。
実際、二人ともとっても楽しんでいる様子が伺える。
見ていてこちらも嬉しくなる。
「ただの飲み物なんですけど、チャイって体験要素があるんですよね。」
チャイを作るまでにスパイスを砕いて、煮出して、攪拌して、とあらゆる工程がある。
お客さんは店内に入って間髪入れず香りに迎えられる。
カラフルなタイルのカウンターに物珍しいスパイスが所狭しと置いてあり、目の前でそのスパイスがゴリゴリ粉と化し、またそれがグツグツされてどんどん変化していく。
オープンキッチンにしたのもその過程全てを体感して欲しくて提案したそうだ。
ソレら全てが「味プラスαのストーリー」だという。
金子夫婦は常に試作を模索し続けている。
スパイスの組み合わせや、様々な茶葉、色んな種類の牛乳、そして攪拌して適度な温度調節などもありとあらゆる角度で足し算、引き算、掛け算と日々試行錯誤しているのだ。
気まぐれで出す「本日のチャイ」は試している中でお客さんに飲んでもらいたいと思ったものを提供。
そして「季節のチャイ」はその時の旬のフルーツなどを使って楽しませてくれる。
私があの日チャイを体感した時も「ピーチとピパーチのチャイ」だった。思い出すだけで喉越しと華やかな香りが鼻に抜ける感じに中毒性を感じる。
ピパーチは沖縄の胡椒と言われ、正式名は「ヒハツモドキ」。
通常の胡椒より香りが独特で甘い柑橘類のような、それでいて胡椒ほど刺々しくない優しい味わいだ。
沖縄には様々な沖縄特有の素材が溢れていて、カラキ(琉球シナモン)や月桃(沖縄に咲くショウガ科の植物)など、チャイに合う可能性だらけ。
「沖縄ってローカルの人も、移住してきた人も、観光客もいるし、子供も多いし、お客さんの層がすごく幅広いんですよね〜!そこが面白くて、チャイっていう飲み物を介して満足できるものを提供できたらいいなと思います。」
確かにこの亜熱帯気候により、沖縄に来ると体がスパイスをいつも以上に求めてしまう気がする。
「でも、僕たちはカレーは出さないって決めてるんです。」とふふっと笑った。
「カレーとチャイってセットで出てくるものだから、チャイがメインに出てこなくなっちゃうんですよね。」ただのオマケではないと断言する口調にとってもチャイ愛を感じる。
そうなんです。みなさん、チャイは主役です。
チャイは常に進化していて、その可能性は無限大だと語る金子さん夫婦。
沖縄北部の本部にある「COFFEE SENTI」というコーヒー屋さんと共同で開発した、「ダーティーチャイ」というものがあるらしい。
ダーティーといえばダーティーマティーニしか知らない私の耳には新しい。
「海外ではあるみたいなんですが、ダーティーチャイはチャイにエスプレッソを入れるんです。今ではCOFFEE SENTIの定番メニューなんですよ。ぜひ北部に行くことがあれば試してみてください」とにっこり。
他にもCHAI NEED USでは、クラッシックチャイから、クラシック+1スパイスチャイ、アレンジチャイまで、そしてエスプレッソトニックならぬ、チャイトニックなどさすがチャイ専門店だけあっていい感じのツボを攻めてくる。
お互い楽しみながら「直感」を大切にここまでカタチにできるのは、二人三脚できている証拠だ。
そんな夫婦が心を込めて作るチャイなんて、絶対美味しいに決まっている。
チャイをもっと一般的に飲めるものにしたいと語る金子夫婦。
アイス月桃チャイを口に含みながらそのお話を聞く。
恐ろしくも爽やかなその味わいにCHAI NEED USというよりも、もはや「WE NEED CHAI」じゃないかと私は心の中で呟いた。なぜ今までチャイの偉大さに気が付かなかったのだろう。
(ちなみにここだけの話だが、CHAI NEED USはチャイを煮出すという意味でもあるとかないとか。)
ぜひここまで足を運んでみてほしい。
確実にチャイにハマりそうだ。
もっとチャイのこと知りたい!
そう心に刻み、また灼熱の太陽が遠慮せずに照り続ける中へ挑む。
その足取りはさっきよりずっとずっと軽やかだった。
Photo by Makoto Nakasone
Text by Michiko Nozaki
店舗情報:
CHAI NEED US (チャイニダス)
住所 〒902-0071 沖縄県那覇市繁多川1丁目1−8
営業時間 11:00-18:00
定休日 月曜日
電話 098-996-2622
@chai_need_us