人は昔からいろんな手法で自らの思考や感情、感覚を表現をしてきた。
それは五感のいずれか、いずれをも満たし、風習も取り込む。
料理、ファッション、歌や文学などその芸術的な表現方法は多岐にわたる。
アートもアウトプットの一つで、その表現の一つにタトゥーがある。
アート的な側面もありながら、更にアイデンティティーを表す手法の一つであるタトゥー。
文化的背景から芸術シーンまでと幅広い。
トゥーパック・シャクールからレオナール・フジタと各分野の錚々たる面々もタトゥーという表現を取り入れているのだ。
なんて、意気揚々と言ってみたり。
もちろん世の中には民族的な習俗などもあり、日本では琉球からアイヌまで歴史的背景も含めて存在する。そしてプラクティカルな理由で行う術でもある。
そんな多種多様なカルチャーがある中で「タトゥー」は一種の表現手段なのだ。
グラフィティーアーティストとして沖縄を代表するー人であるKWさん。
19歳の頃からかれこれ20年アートを通して表現してきた。
「落書きに近いんですけど、面白いカルチャーで。アートっていう側面も持っているんですよね。」
おっとりとした口調で丁寧に話してくれるKWさんは、元々グラフィティーアーティスト活動していた際に、
宜野湾で10年ほどアトリエ兼ギャラリーをしていたという。
ストリートカルチャーの一環として、グラフィティーシーンにいる若い子たちに利用してもらったりと、みんなが集まってくるような場所だった。
当時昼は印刷会社に勤め、デザインワークを行ない、夜はアトリエで日々作品作りに没頭した。
その頃から自然と気づいたら「デザイン」に携わっていたという感覚だったそう。
「おじいちゃんも絵描きだったんですよ。今でいうイラストレーターだったのかな。」と微笑んだ。
「当時のパッケージデザインって原画自体が全部手書きで。オキコラーメンのロゴとか名護市のマークもおじいちゃんがデザインしてたんです。だからと言って、その頃影響を受けてたってわけでも無いんですけどね。」と照れながら語ってくれた。
「これはね、自分の練習で入れました。」
そういうと左足の内側の大切なロゴデザインを見せてくれた。
アートギャラリーをやっているなかで、エキシビジョンを県外でも行ったりと、どんどん運営が忙しくなっていった。
ストリートアートでは異例の大規模な沖縄県立博物館・美術館でもグラフィティー展を行ったりと引っ張りだこ。
「結構大きな作品が多くて、そのデカさもサイズ感とかがグラフィティーの魅力だったりするじゃないですか。」
そんな中、絵を描きたくて始めたアトリエ兼ギャラリーだったが、運営が良くも悪くも忙しくなってしまい本来の目的だった「絵を描くこと」自体が少なくなってきてしまったという。
「アーティストとしていろんなアウトプットをしてきたんですよね。だからちょっと一旦違う方向へ行きたいなと思ったんです。」
ふと思い立って、周りの後押しもあり、心機一転「彫り師」という道を歩み始めたKWさん。
「だからタトゥー歴でいうと3年でまだ浅いんです。」
独学でデザインを勉強し、アートとして昇華する中で、ストリートで学んできたものが今に生かされている。
「僕は意味というより、ストリートの空気感をアートを通して表現してきたんです。」
そういうとしばらく言葉を探した。
「すごく説明が難しいんですけど、僕が大事にしているのは、FLOW(フロウ)なんですよね。一貫して線のFLOWがめちゃくちゃ好きですね。」
そういうと豪快に笑って、沈黙が弾けた瞬間思わず私も一緒に笑った。
グラフィティーはレタリングがメインでアーティストネームをタギングし、言わば自分の名前を書き散らすことだという。そんなストリートカルチャーの要素を取り入れつつ、アート作品として表現する。
「こういうローズをモチーフにして描いたりしてたんですけど、ライン運びとかドリップの加減とか、曲線の角度とかが好きですね。」
KWさん曰くそれはテクニックとも違うという。
FLOW(フロウ)はストリートカルチャーには欠かせない単語だが、いわば個人独特の抑揚やリズムだったりを示すことが多い。音楽でもアートでも、その時の「流れ」に身を委ねる感覚に近いだろう。
その時の感覚を大事に作品作りをしていく中で、滲み出る強弱がKWさんのいう「線はこび」に繋がる。
心理学でも人間の集中がピーク状態のことをフローという。
スポーツではそれがパフォーマンスに繋がるため、ゾーンに入るという言い方をするが、ある意味それぞれ感覚を研ぎ澄ますという点ではコネクションが少なからずあるはずだ。
「アートって自分の内なるものだったり感情をキャンバスにぶつけることができるじゃないですか。1人でできるんですよ。でもタトゥーは相手があってのことなんで、片方だけだと成立しないんですよね。」
「お客さんと会話してその中から生み出していくプロセスが、自分にないモノのお題をくれるようで新しい発見があってすごく楽しいんですよ。」口調でワクワクが伝わってくる。
お客さんは文字や意味などのメッセージを考える。
単にその文字がいいのであればパソコンのフォントで事足りてしまう。
だがその文字を更にエレベートするにはデザイン性を足すことが必要になる。
そこでKWさんの出番なのだ。
「お客さんの要望に合わせて、自分なりの解釈で、ご希望のその上をいく感じで提供できたらいいなと思う。」
「沖縄はタトゥーカルチャーに寛容になってきたと思う。偏見も少なくなってきたような気もするし。」
「地元だからわかるんですよね。街の流れを見ていてもタトゥーが「個性」として認知されてきていると思う。」
歴史的な背景も含めて基地との関わり合いもあり、沖縄にはタトゥーパーラーの数はとっても多い。
特に沖縄には独特の風習で「ハジチ(針突)」という文化も存在し、かつてそれは民族的にも大切な造形文化の一つだった。
「なるべくフラットな感じの入り口であり続けたいですね。カジュアルにもっと利用してもらいたいから、誰でも入ってこれるような場所でいたい。」そういうと目を細めて確かめるように頷いた。
クリーン且つエッジの効いた店内はKWさんのフラットという表現が似合う作りになっている。
タトゥー施術中に見上げて少しでも面白いようにと天井にびっしりとポスターが貼ってある。
そんなさりげない心遣いも嬉しい。
地元のストリートカルチャーと共に歩んできたからこその感覚。
今はインプット期間だという。
新しいことを常に吸収して、またそのうちアウトプットをするためにタトゥーというアプローチを試みているKWさん。彼が表現するアートの過程として今がある。
そう、私たちは彼の進化過程のど真ん中にいるのだ。
もしご興味あれば、ちょっと人とは違う旅の証にでもいかが。
自分のアートの解釈が広がるかもしれない。
Photo by Makoto Nakasone
Text by Michiko Nozaki
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